[灰色ロリーポップ]
生まれてから一度も日に当たったことがないような肌が弾力を以ってへこむ。ただ触れるだけの動作に、少年は小さな嬌声を漏らした。 それが快感を伴ったものだということは、紅潮した頬からもうかがえる。骨格も丸く、二次成長も迎えていないような少年の顔は、絶え間なく襲う刺激によって歪められていた。 「あうぅ……やめっ……」 細い足が己をシーツに縫い付ける鎖に抵抗するが、力のこもらないそれは戯れにも見える。銀色の鎖が蛍光灯の下できらめいた。 四畳半の小さな部屋。ベッドしかない簡素な空間を、少年と男だけが蠢く。シーツ、少年、男の順に色が濃くなっていく。それがこの世界のすべての色だ。彼らは一糸まとわぬ姿だった。 少年の腕は浅黒い肌の男によって拘束されていた。足には鎖があり、ベッドの柵に繋がれている。鎖は短く、伸ばしても少年が部屋の壁まで到達するには足りない。 例え拘束するものがなくても抵抗できたかどうかは疑問だ。少年の目は不自然なほど虚ろで空をさまよっていた。薬でも盛られているのだろう。 全身を性感帯に変えられた少年は男の愛撫にも満たない前戯を受け入れるのみ。快感は十二分に少年自身を育て上げているが、核心をつかない男の指は、少年の欲の解放を許さない。 精通を迎えて間もないであろう少年の中心部は、不安にか快感にか震えていた。まだ桃色を残した小さくて綺麗な性器。白濁した液がその先端を濡らしている。 少しでも刺激を得ようと、少年の腰が揺らめく。 「あぁ……あぁっ」 しかし拘束された身体では満足に自分を慰めることもできずに、つらそうな声を上げる。 「男の子は我慢しないとって言っただろ?」 男は少年を慰めるどころか、白い液を少しずつ吐き出している少年の性器を人差し指と親指で握り締めた。 「ひ……あっ!」 少年の眉が歪む。強く閉じられた目蓋から涙がこぼれた。 「ご褒美、お預けだぞ?」 男は少年の股の間に割り込み、足を開かせた。左右の足の付け根の真ん中で、男に握られた桃色の花が露になる。白い蜜が花弁を伝った。 男は猛った性器を軽く少年の秘部に押し付ける。秘部は一度拒むように収縮した後、欲するように弛む。 「やだ……」 少年は瞳に涙をためたまま、首を横に振った。 「おっきいの……ほしい」 男から解放された方の手で少年は自らの秘部に指を添える。細い指先を中に食い込ませ、身体を捩って男自身に秘部を押し当てた。 「いい子にするって誓うか?」 少年が頷く。柔らかそうな猫っ毛が汗ばんだ額にへばりつく。 「お兄さんと上手に繋がれるか?」 「がんばる……」 少年は潤んだ瞳で懇願し、待ちきれないとでもいうように指を奥へ進めようとする。第一関節が完全に埋もれた。 男は少年の敏感な部分を解放する代わりに、秘部に潜り込んだ手を捕まえる。 「んっ……」 気持ちよさそうな声が鼻から抜けてくぐもる。男は淋しくなったその場所に男の硬い分身をあてがう。少年の息が吸われた瞬間を狙い、男は腰を一気に ぷるるるる、とそこで機械音。言っておくけどバグが起きたわけではない。この場にそぐわない単調で原始的な音は間違いなく現実のもので、初期設定のままいじっていない俺の携帯の着信音である。 俺はパンツの中に手を突っ込んだまましばらく硬直していた。目の前の画面の中ではちょっと十八歳未満にはお見せできないような内容の情事が繰り広げられている。 左右のスピーカーから聞こえてくる嬌声。まったく関係ないところから聞こえてくる電話の音。どっちを優先するかといえばそれは決まっている。 エロビデオの方に決まってるだろ当然! 俺は携帯を布団の方に放り投げる。着信元を確認しなかったがそんなものは別に良いだろう。土曜日の午後六時代、俺の憩いの一時を妨害する時点でろくな電話ではない。 気を取り直して俺は画面を凝視しながら自分の中心部を握り締めた。先端を指でなぞれば、既に湿っている。達するにはまだ及ばないので、俺は画面の男が少年の身体を貫くテンポで自身をしごき始めた。 少年の中はきつくて気持ちいいんだろうな。画面の男に自分を投影して少年を犯す気持ちになる。いや、俺はこの男優ほど良い身体はしていないけれど(特に悲しいかな、今触れている部分が)。 弁解しておきたいのは、俺は別にホモじゃないってことだ。彼女だっていた。全員相手は義務教育だったけど。俺はただの――えばれるもんではないし、もしかしたら余計に危ないけど――ロリコンだ。ショタは現在開拓中。 少年少女誘拐とかそんなことはしたりしないが、部屋の壁は壁紙の原形が判らないくらいにポスターで生め尽くされている。貼ってあるのは比較的危険度の低いもの(年齢制限なし)が多いけど、今目の前にしているパソコンの中には秘蔵のコレクションが満載だ。 ビデオデッキと接続してあるからビデオも見放題だしDVDもちゃんと見られる。まさに俺のオアシス! かったるい大学生活もこれのおかげで乗り越えられる。 可愛い子供を前にすれば心身共に癒され……るんだけどなぁまったく。一度切れたかに見えた電話は再び鳴りだし、俺の手を止める。真っ最中なんだから、そっとしておいてほしいんだが。 当然この中で致せるほど俺は図太くない。仕方ないけど、中断するしかないようだ。俺はマウスで一時停止ボタンを押して映像を止めて、汚れていない方の手で携帯をつかんだ。 犬飼。画面には同じオールラウンド系サークルに入っている、クラスメイト(大学に入ってまでクラスが存在するとは思わなかった)の名前が浮かび上がっていた。さほど親しくない相手なのでどうせクラスかサークル関係の連絡事項なのだろうと見当をつけつつ、俺は受信ボタンを押した。 「へーい、もしもし」 『あ、鳥越君』 雑音がひどくて聞き取りづらいが、何となく俺の名前が呼ばれていることだけは判る。俺は大きめの声で「ああ」と返した。 『今暇?』 「どーせ暇といえば暇ですよ」 授業も最低限しか取っていない俺に忙しいという言葉はバイト以外で当てはまらない。現在は恋人募集中なのでそっち関係の忙しさもない。ストライクゾーンは義務教育以下だが、さすがに二十歳になって義務教育の彼女をゲットするのは色々とまずかろう。俺だって現実をわきまえているのだ。 『じゃあお金ある?』 「……あるけど」 話の方向性に怪しさを感じて、俺は少しだけ言いよどんだ。一人暮らしをしていると金に関してどうも警戒してしまう。しかも相手はさして親しくない人物だ。親からの仕送りもあるしバイトもしているし金に困ることはないのだが、慎重になるに越したことはない。 『マジで!』 俺の心情をよそに、電話の向こうからはあからさまに嬉しそうな声が聞こえてきた。雑音も何のその、でかい声は電話口から突き刺すように耳に入ってくる。こいつのお子様ボイスは妙に甲高くて頭に響くな。俺は思わず電話を耳から遠ざけた。 犬飼もはしゃぎすぎた自覚はあったようで、ワンテンポ置いてから続ける。 『それならさ、今から飲み会に参加してよ』 声が小さくなった分雑音も小さくなった。犬飼が静かなところに移動したのだろう。なるほど、飲み会ということは先ほどからうるさかった雑音は話し声か。 俺はパソコンの右下に表示されている時計を見た。いつの間にやら午後七時少し過ぎ。時間的には今飲み屋に移ったばかりのところだろう。 『実は集合時間過ぎても、来る予定の人が来なくてさ。今からキャンセルしてもキャンセル料かかるし、放っておいても一人分の徴収料金増えるじゃん。幹事としてはそういうの避けたいんだよね。誰か家の近いやつで来てくれないかと、さっきから電話掛けまくってたんだ』 「で、俺のところまで回ってきたということは誰も捕まらなかったわけか」 『そう! 本当は鳥越君と全然関係ないメンバーだから呼ぶの忍びないんだけど』 まったくだ。幹事も大変だな。こうしてわざわざ大して親しくもない奴のところまで電話を掛けなくちゃならないなんて。 俺は一時停止したままになっていた画面を閉じた。その背面で開いていたエクスプローラーも消す。体操着とブルマに身を包んだ幼女のイラストがディスプレイを乗っ取る。俺はスタートメニューの終了オプションを選択して、パソコンの電源を落とした。 『嫌でなければ、来てくれるかな?』 犬飼はしおらしく小さな声で尋ねてくる。俺の答えは割と早かった。 「いいよ」 ここで困っている知人を見捨てるようでは男じゃない。別にストライクゾーンじゃなくても他人に優しくしてはいけない理由にはならない。困っているおじいさんおばあさんを見たら手を貸すのと同じ理由だ。あ、別に義務教育卒業してるからって犬飼を年寄り扱いしているわけではないぞ。物の例えだ。 電話の向こうからは「やったー!」とか「ありがとう!」と叫びながら喜ぶ犬飼の声が聞こえる。うむ、いいことした。 パソコンの画面が完全に消えると、部屋は真っ暗になっていた。ビデオを見始めたときはまだ日が残っていたのに、七時にもなるとさすがに電気をつけないとつらい。 椅子から少し腰を上げて蛍光灯のコードを引っ張る。明かりをつけると、本やらCDやらゲームのパッケージで散らかった部屋が姿を現した。棚は一応あるが、物がその収容能力をはるかに超えてしまっているため床に置かざるを得ない。 そろそろカラーボックスを買い足そうか……と思いつつも、誰も部屋に呼ぶことがないので良いかと先延ばしにしてしまう。とりあえず今も出かけることだし。 俺はパソコンのディスプレイの横に置いてあるメモ用紙に犬飼から聞いた居酒屋の名前と場所を走り書き、電話を切った。確かにうちからだいぶ近いところだ。酔っ払い運転を気にしなくても徒歩で行ける範囲内だ。何度か行ったことがあるので道も判る。 早く行かないと飲み会が始まって俺だけ置いてけぼりになってしまう。椅子から立ち、着替えようかどうかちょっとだけ迷って、椅子の背に掛けていた上着を羽織るにとどめた。萌えTシャツさえ着ていかなければ良いだろう。 床に散らばっているものを蹴飛ばしながら玄関まで数歩でたどり着き、俺は電気を消した。財布も鍵も学校から帰ったままポケットに入れっぱなし。後は携帯を上着のポケットに突っ込んで、俺は足で探りながら靴を履いた(どうせサンダルかスニーカーしかないので履き間違えることはない)。 一時の別れだ、さらば俺の城。俺はドアを開けて、涼しい晩夏の夜風を顔面に受けた。 |