この四コマは「ちるはさんのネタメール→四行の文字のネーム→漫画にする」という手順でお話を作っています。下がAct.0の1ページ目のネームです↓
(仕事で疲れたし必修落とすし最悪やわ)階段を上がる足。 (はよ寝よー…)ドアの前、電話が鳴り始める。 「げ、電話! あれ、鍵!」ポケットというポケットに手を突っ込む。 「仕事先に鍵忘れた……」電話の音が鳴り響く自室のドアの前で、勇也屈み込む。(最悪の一日や。) これを元に下絵を描いてペン入れしてコミスタミニで仕上げています。が、四コマではなく小説で書くとどうなるかという試みでこのコマだけ小説版を作ってみました。 あと十段。そうすれば深い眠りにつける。勇也は重い体を支えながら、階段を一段一段上っていた。いつもなら二段くらいすっ飛ばすところだが、生憎とそんな体力はない。立っているだけでも精一杯なのだ。 バイトで力を使い果たしたということもある。それ以上に……精神的なダメージの方が大きかったりするのだが。 さして新しいわけでもない階段の手すりが、今日はやけに大げさに泣いている気がする。勇也がペンキのはげかかった赤銅色の手すりをつかむと、接続部がきしんで甲高い音を鳴らした。勇也も叫びだしたくなった。 今日事務室でもらった成績表で、不可が返ってきた。必修単位である。必修というくらいだから当然必ず合格しなければならないはずだったが、だからといって必ず合格させてくれるわけではない。現に勇也は非情な現実を目の当たりにしていた。 予習復習の甲斐なく、十中八九元来の頭の悪さのせいなのだが、スポーツ推薦で自分の学力に見合わない大学に入ってしまったのだから仕方がない。こうなるとバイトの時間を減らすしかないのか……と思うと働く間も気が重い。しかしバイトは生活費のためだからやめられない。深く悩むことに慣れていなかった勇也の脳みそは今日一日だけですっかりオーバーヒートしていた。 「今日は最悪やわ」 上京して半年余り、まだ関西なまりの抜けきっていない口調で呟く。家に帰って早く布団にもぐって、何もかもまどろみの中に捨ててしまいたかった。 幸いなことにアパートまであと階段を三段残すのみとなった。勇也の部屋は一階の一番手前なので、この最後の関門を突破してしまえば家に着いたも同然。鍵を取り出すために手はもうポケットの中を探っている。勢いづけて一気に三段を消化し、勇也はアパートの前に立つ。 アパートの明かりは半分くらいが灯っていた。さすがにまだ寝る時間ではないので、明かりがないところはまだ家主が帰宅していないのだろう。勇也はポケットから手を出し別のポケットへと入れ直した。 八月とはいえ下旬に入ると夜には秋の気配が忍び寄る。どこかの草むらで虫がきれいな音を立てながら静かに鳴いていた。勇也はズボンのポケットに片っ端から手を突っ込んだ。 どこからか電子音が断続的に鳴り始めた。近いけれどこもっていて小さく聞こえる。勇也は携帯電話というものを持っていない。近くには誰もいない。となれば、電話の音は勇也の部屋の中から聞こえていた。、 「やばい、電話」 後ろのポケットに手を入れた状態のまま硬直する。息を飲んで、もう一度ポケットの中を探る。上着のポケットを逆さまにひっくり返した。中からパンくずとねじったレシートが落ちてきた。レシートはコンクリートの足場に落下してこつんという音をたてる。暗がりに落ちて見えなくなった。 「鍵がない……」 そんなはずはない。血の気が引いていい感じに冷えた頭で自分の行動を思い返す。電話の音などもはや頭の中には入ってこなかった。ある意味ものすごい集中力だ。そのためか混乱している割にすんなりと思考できた(試験のときもこうであればいいのだが)。 バイト先で制服から私服に着替え直して、そのときにキーホルダーがでかくて邪魔だった鍵をいったんロッカーの中に置いて。 それから再び鍵をポケットの中にしまいこんだ記憶がないのだから、鍵はバイト先のロッカーの中にあるに決まっている。 「忘れてきた……」 勇也はドアの前でへたり込む。木製のドアに額を押し付けた。電話の音が少し大きくなった。電話の音はなかなか止まらない。電話をかけるには少し非常識な遅い時間、かけてくるのはよほど急用の知人か身内くらいしかいないだろう。 「せやから、出られんのやて」 と言っても、ドア越しの受話器越しの相手に通じるはずもなかった。 こんな感じです。小説だと風景をすべて文章に起こさないといけないので長くなります(私の場合は)。四コマは四コマごとに必ず落ちがつくので、だらだら続く文章とは同じ場面でもだいぶ雰囲気が違うと思います。結局文章では冗長になってしまうので四コマになりました。引き続き4コマで「日暮しネコロジー」にお付き合いください(^^) |